X(旧Twitter)のタイムラインに突如として現れ、瞬く間に何万もの反響を呼んだ謎の巨大立体作品がある。「デカチチバト」だ──。
一度見たら忘れられない強烈なビジュアルは、多くのユーザーに驚きと笑いをもたらしました。
しかし、これらの作品は単なる思いつきやで生まれたものではありません。作品の根底にあったのは、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業生であるじょうきさんの、「面白いとは何か」を体系的に見つめる鋭い観察眼と、制作期間わずか2ヶ月というスピードで作品を生み出す確かな造形力にありました。
今回、「でみたす!」編集部はこれらの作品を生み出した気鋭のクリエイター・じょうき氏にインタビューを敢行。一見ポップでファンシーな作品群の裏に秘められた、緻密な「笑い」への探究心に迫りました。
「面白い」の源泉は身の回りにある小さな違和感
ーー「デカチチバト」がSNSで大きな反響を呼びましたね!非常にインパクトのある巨大立体を作ろうと思ったインスピレーションの源泉はどこにあったのでしょうか?
私は、武蔵野美術大学の造形学部、視覚伝達デザイン学科に所属していました。その卒業制作として、制作したのが、今回の「デカチチバト」をはじめとする、「面白いを創ろう」の展示だったんです。
デザインのテーマとしては、「『面白い』というのは、どうやったら創れるのか」。卒業制作展までの1年間をかけて、どうしたら人は面白いと思うのかを研究していました。最終的にさまざまな分析を経て気づいたのが、「身の回りにあるものに、少しの違和感をプラスする」というアプローチでした。
ーー 数あるモチーフの中で、あえてハトやボルゾイといった「動物」を選んだのはなぜですか?
今回は「違和感」のテーマを観客にも分かりやすく表現するために、動物を選びました。私が好きなハトとボルゾイをモチーフにし、それぞれの特徴に関連するものを掛け合わせています。 例えば「デカチチバト」は、「鳩胸」というワードからイメージを広げて制作しました。
動物で「胸」が取り上げられることって、あまりないじゃないですか。そこに着目するのが面白いなと。

ボルゾイあみだくじに関しても、足の長いボルゾイの特徴を活かして、異常に長く伸びた足でまさかのあみだくじをしてみたりしました。動物であるまじき奇数の足の奇妙さや、あたりだけどあたりじゃないという違和感が、いい意味で観客の皆さんに作用すれば嬉しいなと思っています。

ーー なるほど。日常のありふれたテーマから一気に飛躍し、そのギャップを生み出すことが「面白さ」に直結しているのですね。じょうきさんご自身は、普段から動物と触れ合う機会が多かったのでしょうか。
資料集めのために、動物園や博物館、動物に出会える場所にはよく足を運んでいました。自分の目で動物たちの特徴をしっかりと分析することで、あくまで動物としてのリアリティは確保したかったんです。
ちなみに、今は会えてませんが、 実家で天邪鬼なチワワを飼ってもいます。
ルーツはアニメと漫才にあった?「おもしろい」を追い求めた大学生活
ーー じょうきさんの大学生活では、主にどのようなことを研究されてきたのでしょうか。
大まかに言うと、私の所属する視覚伝達デザイン学科では「日常の出来事や現象をうまく人に伝えるために、どんな媒体で作品を作り、見てもらい、届けるか」というプロセスを大切に学んできました。
私自身、これまでもイラストや立体など、さまざまな表現手法に取り組んできましたが、4年間の活動を通して私が一貫して大切にしてきたのは「人がクスッと笑えるような作品作り」ですね。
ーー じょうきさんのインプットの源泉や、影響を受けたアーティストさんなどはいらっしゃるのでしょうか。
表現の面で言うと、海外アニメを放送している「カートゥーン ネットワーク」が小さな頃からずっと好きでした。海外アニメならではのちょっと大げさにも思える動きや演出が、子供ながらに面白いと思ったんです。
また、今回の作品を作るにあたって、芸人さんの漫才やコントも研究しました。なかでもロバート秋山さんのYouTubeチャンネルをよく拝見しており、「クリエイターズ・ファイル」が特に好きでした。
「上杉みちくんのえんきん社会科見学・ゴミ処理工場編」が印象に残っています。
制作期間はたったの2ヶ月! 巨大立体を生んだ超スピードと秘めたこだわり
ーー 最終的に卒業制作という集大成の場で「立体」という表現を選ばれた理由をお聞かせください。
大学3年生の時に、立体制作が大好きになったんです。学生生活の最後に「たぶんこれからの人生ではもうできないだろうな」と思うくらい、壮大で手間の掛かるものを作りたいという強い気持ちがあり、以前から挑戦してみたかった巨大立体に取り組みました。
ーー これほど巨大で緻密な作品群を、すべて含めて「約2ヶ月」で制作されたとお聞きしました。信じられないスピードですね。
手は早いほうだと自負しています。 素材は主に発泡スチロールを使用しており、部分的には断熱材によく使われる密度の高い「スタイロフォーム」を用いて強度を出しています。
例えば、「ボルゾイであみだくじ」の、足が交差している細かい部分に、「スタイロフォーム」を使用しているんです。細かな造形はカッターで細かく削り出していき、最終的に現在の仕上がりになっています。
ーー すべてご自身の手で削り出しているのですね。実物を見ると、「デカチチバト」のビキニの紐の部分など、ディテールへのこだわりも凄まじいと感じました。
実はこのビキニの紐、本当にほどける仕様になっているんです(笑)。下着自体も本物の布を使用しています。ただ、大事な三角の部分は少しだけくっつけてあって、しっかりと守られている構造にはなっています。
「ビキニが結構リアル」という点にも、小さな違和感を忍ばせて、クスッと笑える要素をつくっています。
「ツボを突く」キャラクターとして、長年愛される存在へ
ーー 今後、クリエイター・じょうきさん個人としては、どのような活動を展開していきたいとお考えですか?
今回制作したハトに限らず、生み出したキャラクターたちをすべて大切にし、長く活動を続けていきたいと思っています。現在はイラストで物語性を作ったり、漫画を描いたりといったアプローチも進めているところです。
すでに「Suzuri」というサービスで、「デカチチバト」のアクリルキーホルダーやTシャツ、アクリルスタンドなどのグッズ展開も始めています。
ーー キャラクタービジネスとしての展開もすでに見据えられているのですね。最後に、生み出したキャラクターたちの今後の展望も教えてください。
少しセンシティブな部分を孕んでいるキャラクターでもあると思うので、あえてそういった“穴場”を狙っていきたいです。
万人受けを狙いすぎるのではなく、少ない人数の心に深く刺さるような「ツボなキャラクター」になってほしいんです。 彼らの生活感やストーリーも作り込みながら、5年、7年と、いろんな世代の場で長く愛されるキャラクターに育てていきたいと思っています。